結果/介入 | 重症度 | 浸透率 | 有効性 | 介入の程度 とリスク |
アクセス性 | スコア |
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乳癌(BRCA1)/ サーベイランス | 2 | 3A | 2A | 3 | A | 10AA-A |
乳癌(BRCA1)/ 乳房切除 | 2 | 3A | 3A | 1 | C | 9AA-C |
卵巣癌(BRCA1)/ 卵巣摘出 | 2 | 2A | 3A | 1 | C | 8AA-C | 乳癌(BRCA2)/ サーベイランス | 2 | 3A | 2A | 3 | A | 10AA-A |
乳癌(BRCA2)/ 乳房切除 | 2 | 3A | 3A | 1 | C | 9AA-C |
卵巣癌(BRCA2)/ 卵巣摘出 | 2 | 2A | 3A | 1 | C | 8AA-C |
状態:遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC) 遺伝子:BRCA1, BRCA2 | ||
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項目 | エビデンスに関する説明 | 参考文献 |
1.病的アレルを有する人の健康への影響 | ||
遺伝性疾患の有病率 | 一般女性の生涯発症リスクは、乳癌では12.3%、乳癌での死亡は2.8%である。卵巣癌は1.4%が発症し、1%が死亡する。これらの乳癌および卵巣癌の症例のうち、それぞれ3%および10%がBRCA1/2の病的変異を有する。 | 1, 2 |
国内の乳癌の症例のうち、2.71%がBRCA2, 1.45%がBRCA1の病的変異を有する。国内の卵巣癌の症例のうち、4.7%がBRCA2, 9.9%がBRCA1の病的変異を有する。 | J1,J2 | |
臨床像(症候/症状) | BRCA1およびBRCA2の病的バリアントは、女性の乳癌、卵巣癌、卵管癌および原発性腹膜癌のリスク増加と関連している。 これらの病的バリアントはまた、男性では乳癌および前立腺癌と関連している。 男女とも膵癌のリスクが高い可能性がある。 BRCA1/2の病的変異は、乳癌および卵巣癌の濃厚な家族歴に関連し、アシュケナージ系ユダヤ人集団においてより頻繁に見られる。 | 1, 3 |
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) | BRCA関連の乳癌および卵巣癌は、より若年で、典型的には50歳より前に起こり、乳癌は“トリプルネガティブ”(すなわち、エストロゲンおよびプロゲステロン受容体およびHER2陰性)である可能性がより高い。 BRCA1/2に病的変異を有さない乳癌患者と比較して、BRCA1病的バリアントを有する乳癌患者では、短期および長期での全生存割合が有意に低い。しかしながら、BRCA2病的バリアントを有する乳癌患者について同様の関連性はみとめられていない。 | 1, 3 |
2. 予防的介入の効果 | ||
患者の管理 | 化学予防薬(例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン)は、一般集団における高リスク女性の乳癌の発生率を低下させることが示されているが、その有効性はBRCA1/2の病的変異を有する人に関してまだ評価されていない。 (Tier 1)
HBOC診療ガイドライン2021年版(p138)では、条件付推奨とされている。
リスク低減手術(乳房切除術または卵管卵巣摘出術)により、高リスク女性およびBRCA1/2病的バリアント保持者で、乳癌あるいは卵巣癌のリスクをかなり低下させられることが示されている。 乳癌リスクは乳房切除術で85-100%、卵巣摘出術で37%~100%減少した。 卵巣摘出術で卵巣癌のリスクは69?100%低下した。 乳癌特異的死亡率は乳房切除術後81-100%減少し、全死亡率は卵巣摘出術後55-100%減少した。 (Tier 1) HBOC診療ガイドライン2021年版では,リスク低減手術は条件付推奨とされている. |
1,4,5,6,J3 |
サーベイランス |
乳房の視触診、マンモグラフィー、25歳から開始するMRIなどのより頻繁かつ集中的な乳癌スクリーニング。しかし、どのスクリーニング方法も、BRCA病的変異キャリアでの乳癌罹患率を低下させるのに有効であるとは示されていない。 (Tier 1)
卵巣癌のスクリーニング方法でBRCA1/2の病的バリアントを有する女性に有効なものは示されていない。ただし、1年に1回の婦人科での診察、経膣超音波検査、血清125(CA-125)でスクリーニングを行うのは可である。(Tier 1) 男性のキャリアは、毎年の乳房の視触診を受けることが推奨される。ただし有効性を明らかにした情報はない。 (Tier 2) |
1,4,5,7,8 |
回避すべき事項 | 経口避妊薬の使用により、卵巣癌の発症を減少させられることが示されている。 しかし、この効果は一貫して証明されていないにもかかわらず、BRCA1/2の病的バリアントを有する女性において、経口避妊薬の使用により乳癌リスクを増加させることを示唆する研究もある。 (Tier 2) | 8,9 |
3. 健康危害が生じる可能性 | ||
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 | 一般の人々のうちの0.2~0.3%が、アシュケナージ系ユダヤ人では2.1%がBRCA1/2の病的バリアントを有していると推定されている。 (Tier 1) | 1 |
癌の既往も家族歴もない日本人11,241人での検査結果で、0.17%にBRCA2の、 0.04%にBRCA1の病的変異をみとめた。 | J1 | |
浸透率または相対リスク | BRCA1の臨床的に有意な病的変異は、70歳までに乳癌の46?57%のリスクと40%の卵巣癌のリスクと関連している。BRCA2の病的変異は、70歳までに乳癌の50%のリスクと卵巣癌の20%近いリスクと関連している (Tier 1) | 1,10 |
表現度 | エストロゲン、プロゲステロン、およびヒト表皮成長因子受容体の表出やその程度を含む腫瘍の病理学的および臨床的特徴は、病的変異のタイプによって異なる場合がある。 (Tier 3) | 1 |
4. 介入の方法 | ||
介入の性質 | 介入には、リスク低減手術、侵襲的スクリーニング検査、副作用の可能性のある薬物療法が含まれる。 | |
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性 | ||
臨床的に見逃される可能性 | 平均的リスクを有する女性に現在行われているスクリーニングのやり方では、治癒させるのに十分な早期の乳癌および卵巣癌を検出できる可能性は低い。 乳癌発症時の年齢は50歳より前、つまり平均的リスク集団への典型的なサーベイランスが開始される前である。 卵巣癌は典型的には診断時に既に転移を起こしているため、リスク低減両側性卵管卵巣摘出術をすることが、現在、卵巣癌で死亡する危険性を低減させられる唯一の有効な方法である。 (Tier 1) | 1,4 |
6. 遺伝学的検査へのアクセス | ||
遺伝学的検査 | 日本国内に受託検査会社あり(一部保険適用) |
参考文献
1. Nelson HD, Rongwei F, Goddard K, Mitchell JP, Okinaka-Hu L, Pappas M, Zakher B. Risk Assessment, Genetic Couseling, And Genetic Testing for BRCA-Related Cancer Systematic Review to Update the U.S. Preventive Servicies Task Force Recommendation.. (2013) Website: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK179201/
2. Daly MB, Axilbund JE, Buys SS, Crawford B, Friendman S, Garber JE, et al. Genetic/Familial High-Risk Assessment Breast and Ovarian. National Comprehensive Cancer Network (NCC). (2013) Website: https://education.nccn.org/node/78021
3. Lee EH, Park SK, Park B, Kim SW, Lee MH, Ahn SH, Son BH, Yoo KY, Kang D. Effect of BRCA1/2 mutation on short-term and long-term breast cancer survival: a systematic review and meta-analysis. Breast Cancer Res Treat. (2010) 122(1):11-25.
4. Moyer VA. Risk assessment, genetic counseling, and genetic testing for BRCA-related cancer in women: U.S. Preventive Services Task Force recommendation statement. Ann Intern Med. (2014) 160(4):271-81.
5. Classification and care of people at risk of familial breast cancer and management of breast cancer and related risks in people with a family history of breast cancer. NICE. (2013) Website: https://www.nice.org.uk/guidance/cg164
6. Management of early breast cancer. Wellington (NZ) New Zealand Guidelines Group. Other. (2009) Website: https://www.health.govt.nz/system/files/documents/publications/mgmt-of-early-breast-cancer-aug09.pdf
7. Ovarian carcinoma.. Other. (2009) Website: https://www.guidelinecentral.com/summaries/ovarian-carcinoma/
8. Risk reduction and surveillance strategies for individuals at high genetic risk for breast and ovarian cancer. Other. (2011) Website: https://www.guideline.gov/content.aspx?id=38601
9. Use of hormonal contraception in women with coexisting medical conditions. Other. (2006) Website: https://www.guideline.gov/content.aspx?id=10924
10. Chen S, Parmigiani G. Meta-analysis of BRCA1 and BRCA2 penetrance. J Clin Oncol. (2007) 25(11):1329-33.
J1. Momozawa, Y., Iwasaki, Y., Parsons, M.T. et al. Germline pathogenic variants of 11 breast cancer genes in 7,051 Japanese patients and 11,241 controls. Nat Commun 2018;9: 4083.
J2. Enomoto T, Aoki D, Hattori K, Jinushi M, Kigawa J, Takeshima N, Tsuda H, Watanabe Y, Yoshihara K, Sugiyama T. The first Japanese nationwide multicenter study of BRCA mutation testing in ovarian cancer: CHARacterizing the cross-sectionaL approach to Ovarian cancer geneTic TEsting of BRCA (CHARLOTTE). Int J Gynecol Cancer. 2019 Jul;29(6):1043-1049.
J3. 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構.遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン 2021年版.