ClinGen 最新バージョン 1.2.1 (2020.12.23)
日本版対応バージョン 1.2.0 (2019.10.3)
日本版作成協力者:近藤知大 

Von Hippel-Lindau Syndrome(VHL)サマリーレポート


結果/介入 重症度 浸透率 有効性 介入の程度
とリスク
アクセス性 スコア
褐色細胞腫/サーベイランス 2 3C 2B 3 B 10CB-B
腎細胞癌/サーベイランス 2 3C 3C 3 B 11CC-B

状態:Von Hippel-Lindau Syndrome(VHL) 遺伝子:VHL
項目 エビデンスに関する説明 参考文献
1.病的アレルを有する人の健康への影響
遺伝性疾患の有病率 VHLの有病率は1 / 39,000-1 / 53,000であり、中枢神経血管芽腫患者の約3分の1、網膜血管腫患者の50%超、腎細胞癌患者の1%、孤立性の家族性褐色細胞腫を有する患者の50%、および散発性の褐色細胞腫を有する患者の11%と報告されている。
(VHLガイドラインに特に本邦のデータなし)
1
臨床像(症候/症状) VHLは、脳、脊髄、および網膜の血管芽腫によって特徴付けられる。 腎嚢胞および淡明細胞腎癌、褐色細胞腫、単純嚢胞・漿液性嚢胞腺腫・神経内分泌腫瘍を含む膵臓腫瘍、内耳リンパ嚢腫、精巣上体および子宮広間膜嚢腫も含む。 1.2.3.4.5
VHL 遺伝子の翻訳領域は 639 塩基(213 アミノ酸)であるが、splice 部位の異常、3'側の異常や、大規模な DNA 鎖の欠失なども存在する。過去の解析結果では VHL 病の本邦における遺伝子診断の診断率は本邦例では 84%である(VHL病診療ガイドライン2017年版)。 J1
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) 網膜血管腫はVHLの最も一般的な症状であり、平均診断年齢は25歳、症例の約50%で多発性および両側性であり、35%が視力喪失を経験する。中枢神経血管芽腫は、VHLの典型的な病変であり、約40%の症例において初発発症病変であり、平均診断年齢は29~34歳である。多発性腎嚢胞は一般的にみられ、60歳までに70%の症例で腎細胞癌を発症する。腎細胞癌の平均診断年齢は40?45歳であり、主な死因となっている。 膵臓病変は約60%の患者に見られ、5?10%の患者で膵臓腫瘍を発症する。VHL病全体として、腫瘍診断の平均年齢は22?26歳であり、対応する散発性の発症例よりも有意に若く、そして寿命の中央値は約50歳である。性や民族間での偏りは報告されていない。 (VHL病診療ガイドラインに特に本邦のデータなし) 1.2.3.4.5
2. 予防的介入の効果
患者の管理 成人患者に対する管理の推奨事項は提供されていない。
サーベイランス 患者は褐色細胞腫のスクリーニングを受けるべきである。(Tier 2) 6
患者は神経学的検査、視覚検査、眼科検査、聴覚検査、血圧モニタリング、血中または尿中ノルメタネフリン濃度、また耳感染症を繰り返している患者は内耳道の薄いスライス厚の造影MRI検査、腹部超音波検査を年1回ずつ、腹部MRI検査は1年おきに、脳と全脊椎のMRI検査は1?3年ごとに受けるべきである。(Tier 4) 1.2.5
女性では妊娠が予想される時点および妊娠4カ月の時点で、小脳単純MRI検査を含む小脳血管芽腫と褐色細胞腫の重点的なスクリーニングを受けるべきである。 (Tier 4)
(VHLガイドラインに特に本邦のデータなし)
2
中枢神経系血管芽腫
・ハイリスク群(遺伝子検査陽性例、または家族歴がある場合、他臓器の発症で VHL 病と診断された場合)は 11 歳より 2 年毎に造影 MRI 検査を行う。
・小脳など:2cm 以下、脊髄 1cm 以下の無症候性腫瘍でも嚢胞や腫瘍周囲に浮腫を伴う場合は急速に増大する可能性があるので 1)、半年~1年に 1 回の経過観察を行う。
内耳リンパ嚢腫
・経過観察:11 歳から 2 年毎に中枢神経系血管芽腫スクリーニングと同時に MRI と聴力検査にて診断する。
・診断と治療:診断は、症状・聴力検査・画像診断(MRI, CT)によって行われ、発見された場合は聴力低下に注意しながら積極的に手術を行う。

網膜芽腫
・新生児より経過観察を開始する。
・眼底検査により診断するが、蛍光眼底造影検査などの補助検査も重要である。
・治療の基本は網膜光凝固であり合併症に対して手術を行う。傍視神経乳頭型では網膜光凝固が不可能な場合もある。

褐色細胞腫
・VHL 病 2 型家系では、2 歳より問診と尿・血液のホルモン検査を開始、10 歳より画像検査を導入し他の腹部病変と同時にスクリーニングを行う。
・手術では可能な限り副腎部分切除を行い、皮質機能温存をはかる。また腹腔鏡などの低侵襲手技がすすめられる。

腎がん
経過観察
・腎臓がん診断のためのスクリーニングは 15 歳から画像検査(1x/年で超音波と MRI 単純を交互に検査)を開始し、生涯にわたり経過観察する。
・病変の確定診断としては Dynamic CT が推奨される。

診断と治療
・腫瘍径が 2cm を超えたところで治療を考慮する。治療法としては腎温存手術が推奨される。
・腎嚢胞については、サイズにかかわらず経過観察が推奨される。

膵神経内分泌腫瘍(P-NET)
・包括的な腹部臓器の経過観察の一環として 15 歳より画像検査を行う。
・P-NET のない場合、超音波と MRI 単純を 1x/年で交互に検査を行う。
・ P-NET があり、遠隔転移のない場合は治療適応について検討する。6~12 カ月後に腹部 Dynamic CT を再検し、2 つの予後因子(①最大腫瘍サイズ≧2cm、②腫瘍の倍増速度≦500 日)の数により次回の検査時期ならびに治療適応を決定する。
・予後因子=0:2~3 年後に腹部 Dynamic CT 検査を行う。
・予後因子=1:6~12 カ月後に再度腹部 Dynamic CT 検査を行う。
・予後因子=2:治療を行う。
・ P-NET があり、遠隔転移を伴っている場合、治療を行う。

膵嚢胞性病変(漿液性嚢胞腺腫)
膵嚢胞性病変の経過観察
・臨床症状(他臓器の圧迫症状など)のない場合、特に経過観察の必要はない。P-NET に対する経過観察に際し膵嚢胞性病変についても評価する。
膵嚢胞性病変の診断治療
・臨床症状(他臓器の圧迫症状)の出現時に切除術を考慮する。

精巣上体嚢腫
・診断は触診と超音波検査によって行う。
・悪性化は非常に稀で、無症状では経過観察が奨められる。 疼痛・違和感などの有症状例では腫瘍摘出除を考慮する。
J1
家族の疾患管理 家族の変異が既知の場合は、遺伝子検査によりat-riskの家族の遺伝的状態を明らかにし、変異を受け継いでいない人のサーベイランスを回避できる。(Tier 3) 2
At-riskの血縁者のうち、遺伝的状態が不明な人は、VHL患者と同じサーベイランスを受けるべきである。 (Tier 4) 1.2.4.5
遺伝カウンセリング
VHL 病は常染色体優性遺伝性疾患であるため、VHL 病患者を診断治療し、経過観察を行う際は遺伝性疾患として遺伝カウンセリングと遺伝子診断を行い、適切な対応をとることが望まれる。
回避すべき事項 回避すべき事項 タバコ製品は、腎がんのリスク因子と考えられているため、回避すべきである。 VHLにかかわる臓器に影響を及ぼすことが知られている化学薬品および工業毒物は回避すべきである。 副腎または膵臓病変を呈する場合は、コンタクトスポーツは回避すべきである。(Tier 4) 2
CT検査は、高い累積放射線負荷を考えると、特定の状況でのみ適用されるべきである(Tier 4)。 1.5
3. 健康危害が生じる可能性
遺伝形式 常染色体優性形式
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 VHL変異はVHL病と同じ頻度を持ち、それは1 / 39,000-1 / 53,000と推定される。 (Tier 3) 1
浸透率または相対リスク VHL変異は非常に浸透度が高く、ほとんどすべての人が65歳までに疾患に関連した症状を発症する。個々の病変の頻度は、中枢神経血管芽腫が60?80%、網膜血管腫が70%、腎細胞癌が70%、男性の精巣上体嚢胞腺腫が60%、内耳リンパ嚢腫が10?11%、頭部および 頸部傍神経節腫が0.5%である(Tier 3)。 膵臓病変は症例の60%で発症する。神経内分泌腫瘍は15%の患者に見られ、そのうち2%が悪性である。(Tier 1)
成人についての変異の浸透度および相対危険度に関する情報は入手できなかった。
1.2.3
表現度 VHLの臨床徴候とその重症度は家系ごとに、さらには家系内で同じ変異を有していても患者ごとに差異がある。(Tier 4) 1.2.4
4. 介入の方法
介入の方法 この報告書に記載された介入は広範囲の臨床的サーベイランスを含む。
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性
臨床的に見逃される可能性 VHLの臨床的な管理は非常に複雑であり、日常臨床でのサーベイランスを超えて、医療専門家およびセンターへの紹介を含んでいる。大部分の患者はCNS腫瘍の発見によって診断される。したがって、疾患に関連する腫瘍の発生および進展は日常臨床での検出を免れてしまう可能性が高い。(Tier 4) 1.3
6. 遺伝学的検査へのアクセス
遺伝学的検査 塩基配列解析法(DNA シークエンシング)と欠失/重複検出法にて約 84%で診断できる。現在、保険適用はない.民間の検査会社で受託可能である。

参考文献
1. Maher ER, Neumann HP, Richard S. von Hippel-Lindau disease: a clinical and scientific review. Eur J Hum Genet. (2011) 19(6):617-23.
2. Von Hippel-Lindau disease. Gene Reviews. (2012) Website: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1463/
3. Charlesworth M, Verbeke CS, Falk GA, Walsh M, Smith AM, Morris-Stiff G. Pancreatic lesions in von Hippel-Lindau disease? A systematic review and meta-synthesis of the literature. J Gastrointest Surg. (2012) 16(7):1422-8.
4. Von Hippel-Lindau disease. Orphanet. (2012) Website: http://www.orpha.net/consor/cgi-bin/OC_Exp.php?Expert=892
5. Decker J, Neuhaus C, Macdonald F, Brauch H, Maher ER. Clinical utility gene card for: von Hippel-Lindau (VHL). Eur J Hum Genet. (2014) 22(4).
6. Hackam DG, Quinn RR, Ravani P, Rabi DM, Dasgupta K, Daskalopoulou SS, Khan NA, Herman RJ, Bacon SL, Cloutier L, Dawes M, Rabkin SW, Gilbert RE, Ruzicka M, McKay DW, Campbell TS, Grover S, Honos G, Schiffrin EL, Bolli P, Wilson TW, Feldman RD, Lindsay P, Hill MD, Gelfer M, Burns KD, Vallee M, Prasad GV, Lebel M, McLean D, Arnold JM, Moe GW, Howlett JG, Boulanger JM, Larochelle P, Leiter LA, Jones C, Ogilvie RI, Woo V, Kaczorowski J, Trudeau L, Petrella RJ, Milot A, Stone JA, Drouin D, Lavoie KL, Lamarre-Cliche M, Godwin M, Tremblay G, Hamet P, Fodor G, Carruthers SG, Pylypchuk GB, Burgess E, Lewanczuk R, Dresser GK, Penner SB, Hegele RA, McFarlane PA, Sharma M, Reid DJ, Tobe SW, Poirier L, Padwal RS. The 2013 canadian hypertension education program recommendations for blood pressure measurement, diagnosis, assessment of risk, prevention, and treatment of hypertension. Can J Cardiol. (2013) 29(5):528-42.
J1. フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病 診療ガイドライン 2017 年版