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日本版作成協力者:川崎秀徳 武田憲文 

Marfan症候群 (MFS) サマリーレポート


結果/介入 重症度 浸透率 有効性 介入の程度
とリスク
アクセス性 スコア
臨床的に有意な大動脈瘤/サーベイランス 3 3C 3B 3 B 12CBB
大動脈拡張進行/ 薬物治療 2 3C 3A 3 B 11CAB

状態:Marfan症候群 (MFS) 遺伝子:FBN1
項目 エビデンスに関する説明 参考文献
1.病的アレルを有する人の健康への影響
遺伝性疾患の有病率 MFSの有病率は、5,000人から20,000人に1人と推定されている。 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7
臨床像(症候/症状) 既知のFBN1病的変異をもっていたとしても、MFSの診断は臨床像をもとに行われる。MFSは幅広い臨床像を持つ結合組織疾患で、1~数系統に障害を持つ軽症例もあれば、新生児期から進行の速い多臓器障害を引き起こす重症例もある。MFSの主要徴候は、心血管系、眼、骨格系に及ぶ。患者は大動脈基部の拡張を来しやすく、胸部大動脈瘤や大動脈解離を引き起こす要因となる。患者は僧帽弁逸脱や閉鎖不全などの弁膜症をきたすこともある。骨格系の症状(高身長、長い四肢、くも状指趾、胸郭変形、脊椎側弯、関節弛緩)は長管骨の長軸方向への過伸長と結合組織の異常の結果である。最も一般的な眼所見は近視であるが、水晶体偏位が本疾患に特異的な所見であり、網膜剥離や水晶体亜脱臼、緑内障、早発性白内障のリスクも高い。肺疾患としては自然気胸、肺活量低下、睡眠時無呼吸などがある。多くの患者では硬膜拡張がみられ、骨が侵食されたり神経の絞扼性障害をきたすことがある。慢性疼痛、疲労、運動能力・持久力の低下、心理社会的負担、うつや不安も報告されている。 1, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) 発症年齢は出生時から成人までさまざまである。水晶体偏位はよく見られ、10歳以前に認められることが多い。心血管障害(特に大動脈瘤、解離、破裂、うっ血性心不全を伴う僧帽弁逸脱症)は罹患率や早期死亡率に大きく寄与している。大動脈瘤形成は進行性で、年間平均0.5-1mmのペースで拡大を示し、多くの場合18歳では認められる。1970年代に行われたMFSの長期予後研究では、手術を行わなければ平均寿命が32歳とされていたが、MFS患者の生存率は大動脈疾患に対する薬物投与や手術加療によって有意に改善し、一般集団の平均寿命に近づきつつある。民族差、人種差、性差は認められないが、女性の方が生存率がよいとする報告もある。女性にとって妊娠は危険を伴うものであり、妊娠中だけでなく分娩中あるいは産褥期に大動脈基部拡張の急激な進行、大動脈解離や破裂をきたすことがある。 1, 4, 5, 6, 8, 10, 11, 12, 13, 15, 16, 17
2. 予防的介入の効果
患者の管理 MFSと診断された患者は、疾患の進行具合と医学的管理の必要性を調べるために、診断時に以下の評価を行うことが推奨される。
・MFSの専門知識をもつ眼科医による評価
・整形外科医による、早期の医学的管理を要する骨格障害(重度の側弯など)の評価
・心臓超音波検査
・臨床遺伝医ならびに遺伝カウンセラーへの相談(Tier 4)
1
MFSに対する医学的管理は、臨床遺伝医、循環器内科医、眼科医、整形外科医、心臓胸部外科医を含む専門家の集学的チームが協力しあうことで最も効果を発揮する。(Tier 4) 1
大動脈の直径が5.0cmを超える場合に大動脈の予防的手術が推奨されるが、一部のガイドラインでは大動脈の拡大率、進行性の大動脈弁逆流、大動脈解離の家族歴、患者の身長などを考慮した上で、大動脈径が4.5cmを超えた時点で手術を推奨している。MFS患者の大動脈瘤に対して時機を逸さずに手術すれば、生存期間は年齢を一致させた対照群の生存期間に近づく。(Tier 2) 3, 7, 8, 9, 16, 17, 18, 19, 20,J1
MFS妊婦は、大動脈径が4.0cmを超えると大動脈解離のリスクが非常に高くなる。したがって、妊娠を考えている女性の場合、大動脈の拡大率と家族歴を考慮して、大動脈径が4.0~4.5cmを超えた段階で、大動脈の予防的手術が推奨される。(Tier 2) 3, 8, 16, 18, 19, 20,J1, J2
MFSの小児および若年成人を対象とした5つのコホート研究のメタ解析では、β遮断薬治療が無治療と比較して大動脈拡大の速度を低下させることが示された(標準化平均値差:-1.30、95%信頼区間:-2.11~-0.49、p=0.002)。12~50歳のMFS患者70人を対象としたランダム化比較試験でも、β遮断薬が無治療と比較して大動脈拡大の速度を遅らせることが示された(大動脈拡大勾配度数:β遮断薬で0.084に対して無治療で0.023)。しかし、どの研究でも死亡率、大動脈解離の発生率、大動脈や大動脈弁に対する待機的手術の必要性における差異は証明できなかった。(Tier 1) 11, 14
MFSの小児および成人を対象とした6つのランダム化比較試験のメタ解析では、アンギオテンシンII受容体拮抗薬であるロサルタンを投与した群が投与しなかった群と比較して有意に大動脈拡張の速度を遅らせることが示された(標準化平均値差:-0.13、95%信頼区間:-0.25~0.00、p=0.04)。しかし、死亡、心血管手術、大動脈解離や破裂などのイベント発症率の改善は認められなかった。これらの研究における観察期間が35ヶ月から3.5年と短く、このことがイベント発症の評価に影響を与えた可能性がある。(Tier 1) 13
弁膜症が存在する場合には、抜歯や手術などの侵襲的処置の際に抗生剤の予防投与を行うことが推奨される。(Tier 2) 3, 7, 16
妊娠中ならびに産後は大動脈合併症のリスクがさらに高まる。大動脈解離や破裂は、妊娠第3期(約50%)と周産期(33%)に最も高い発生率を示す。妊娠中の女性は、理想的には集学的なチームのもと、高リスク母体を扱うことができる産科施設などで厳密に管理されるべきである。妊娠中の女性は、ステージ2高血圧を防ぐように厳格な血圧管理が求められる。MFS妊婦の場合、入念に管理されていても、4.4%が大動脈解離を発症するとされ、管理されていない患者ではリスクがより高まる可能性がある。(Tier 2) 8, 20
高血圧は的確に診断され治療されるべきである。(Tier 2) 20
結合組織の障害のため、MFS患者はヘルニアを起こす可能性が高い。外科的修復を必要とする鼠径ヘルニアの頻度が最も高い。ヘルニアの再発や外科手術切開部位におけるヘルニアは、結合組織疾患により特徴的な所見である。初発のヘルニアでは、再発のリスクを最小限にするため、合成メッシュまたは同様の人工素材の使用が推奨される。(Tier 2) 7
サーベイランス MFSと診断された時に、心臓超音波検査で大動脈基部から上行大動脈の評価を行い、6ヶ月後に心臓超音波検査の再検を行って、大動脈拡大の変化を確認することが推奨されている。(Tier 2) 3, 8, 16, 18
大動脈径が安定している患者には年1回の心臓超音波検査が推奨される。大動脈径>4.5cmの場合や大動脈拡大速度が速い場合には、より頻回の画像診断が推奨される。(Tier 2) 3, 6, 8, 9, 16, 18, 20
大動脈全体のMRIもしくはCT評価を若年成人から開始することが推奨されている。大動脈基部置換術や大動脈解離の既往のある患者には毎年繰り返すが、そうでない患者では検査間隔をもう少しあけてもよい。(Tier 2) 7, 9, 20
水晶体亜脱臼や緑内障、白内障の評価のため、細隙灯試験も含めた綿密な眼科診察を少なくとも年に1回は受けることが推奨されている。弱視のリスクがある幼児では、慎重かつ積極的な屈折矯正・視覚矯正が必須である。(Tier 2) 7
脊椎の手術矯正が必要になる場合があるため、前屈検査による側弯症の厳密なフォローアップが年に1回必要で、整形外科医による管理が推奨される。(Tier 2) 7
回避すべき事項 MFS患者以外でよく用いられるB型大動脈解離に対するステントグラフトは、その早期および晩期合併症リスクを考慮して、ルーチンでの使用は避けるべきである。もし使用する場合には患者ごとにその適応を慎重に吟味すべきである。(Tier 1) 10
MFS患者はレクリエーション活動に参加してもよいが、大動脈基部拡大、中等度から高度の僧帽弁逆流、左室収縮障害、大動脈解離の家族歴を2つ以上有する場合には、低~中程度の運動強度の静的な競技スポーツや低運動強度の動的な競技スポーツに参加すべきではないとされている。(Tier 2) 3, 6, 7
MFS患者は、激しい身体強度の運動、緊張を必要とするほどの重い物を持ち上げる行為、身体衝突を伴うような、強い競争性や接触を伴うスポーツや等尺性運動を避けるべきである。(Tier 2) 6, 20
ボクシングや空手など、眼外傷の可能性のあるスポーツは避けるべきである。(Tier 2) 7
MFS患者は鼻粘膜充血除去剤の常用を含め、心血管系を刺激するような薬剤の使用は避けるべきである。カフェインは不整脈を誘発することがある。慢性疲労や注意欠陥多動性障害(ADHD)に対する精神刺激薬の使用に際しては循環器内科医と相談すべきである。(Tier 2) 7
MFS患者は金管楽器の吹奏演奏時のような強く息を吹き込むような呼吸、スキューバダイビング、スカイダイビングや登山などの高所スポーツは避けるべきである。(Tier 2) 7
近視に対する角膜屈折矯正手術は、一般的に眼合併症のリスクが高いために禁忌とされています。(Tier 2) 7
3. 健康危害が生じる可能性
遺伝形式 常染色体優性遺伝形式
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 FBN1変異の有病率は不明であるが、FBN1変異がMFS症例の約95%を占めるので、MFS有病率と類似しているはずである。(Tier 3) 7
FBN1変異は改訂Ghent基準を満たすMFS患者の最大97%で認められる。シークエンス解析での変異検出率が90~93%、コピー数解析での変異検出率が約5%と言われている。(Tier 4) 1
浸透率 浸透率は高く、ほとんど患者で一生の間に大動脈病変が認められる。(Tier 4) 1, 8
75~85%の患者で大動脈基部の拡張を認める。(Tier 3) 10, 14
60%の患者で水晶体偏位を認める。(Tier 3) 7
気腫性肺疾患はMFS患者の約10~15%に認められる。(Tier 4) 7
相対リスク 相対リスクに関する情報は入手できなかった。
表現度 MFSは家系内でも家系間でも表現型の差異が大きい。(Tier 3) 5
4. 介入の方法
介入の性質 この報告ではβ遮断薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ロサルタン)、予防的手術について検討した。β遮断薬の副作用には、運動耐用能の低下、倦怠感、気管支攣縮や喘鳴、うつ症状などがある。ロサルタンの副作用には、めまい、失神、血管浮腫、腎機能障害などがある。 13, 14
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性
臨床的に見逃される可能性 罹患率・死亡率に最も寄与するのは大動脈病変である。MFSの大部分は大動脈基部または上行大動脈の拡張、あるいはA型大動脈解離を呈する。しかし、これらの所見は日常的な臨床診療では検出されることは難しい。25%のケースは新規突然変異によるもので、家族歴を有さない。(Tier 4) 1, 8
6. 遺伝学的検査へのアクセス
遺伝学的検査 国内で検査受託機関あり。保険収載。

参考文献
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