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日本版作成協力者:櫻井 晃洋 

多発性内分泌腫瘍症2A型(MEN2A)サマリーレポート


結果/介入 重症度 浸透率 有効性 介入の程度
とリスク
アクセス性 スコア
甲状腺髄様癌/甲状腺全摘出術(未発症) 2 3C 3A 1 C 9CA-C
甲状腺髄様癌/甲状腺全摘出術(発症早期) 2 3C 3A 1 B 9CA-B
褐色細胞腫/生化学スクリーニング 2 3C 3B 3 A 11CB-A
副甲状腺機能亢進症/生化学スクリーニング 1 2C 3B 3 A 9CB-A

状態:多発性内分泌腫瘍症2A型(MEN2A) 遺伝子:RET
項目 エビデンスに関する説明 参考文献
1.病的アレルを有する人の健康への影響
遺伝性疾患の有病率 多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)の全病型(MEN2A, MEN2B, FMTC)をあわせての有病率は1/30,000 から 1/35,000 と推定されている.MEN2のうちでMEN2Aはおおよそ70-80%を占め,家族性甲状腺髄様癌(familial medullary thyroid carcinoma, FMTCが10-20%を占める.全体としては,MEN2Aの有病率は1/40,000程度と考えられるがFMTCの有病率は不明である. 1-5
以前は家族性甲状腺髄様癌(familial medullary thyroid carcinoma, FMTC)もMEN2の病型のひとつとされていたが,2015年の米国甲状腺学会によるガイドラインはFMTCをMEN2Aの一亜型と位置付けている.MEN2のうちMEN2Aがおおよそ95%を占め,MEN2Bは5%未満である. 7
臨床像(症候/症状) MEN2Aは甲状腺髄様癌(medullary thyroid carcinoma, MTC),褐色細胞腫(pheochromocytoma, PHEO),原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism, PHPT)の罹患リスクが高まる疾患である.MEN2A患者の一部は皮膚のアミロイド苔癬(cutaneous lichen amyloidosis, CLA)やヒルシュスプルング病で認められる症状に類似した腸管通過障害を伴う.FMTCはPHEOやPHPTの浸透率が低いためにMTCのみを認めるものであり,MEN2Aの亜型と位置付けられる. 1-4.6
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) MEN2患者では散発例に比べて若年でMTCを発症し,しばしば多巣性,両側性に加えC細胞過形成を伴う.FMTCではMTCは通常中年期に発症する.MEN2Aの発症は典型例では35歳以前であり,通常5-25歳である.MTCは発端者において通常初発症状として頸部腫瘤もしくは頸部痛として発症する.甲状腺摘出術を受けないすべてのMEN2A患者は35歳までにMTC発症の生化学的な証拠が得られる.PHEOは通常MTCに遅れて,もしくは同時に診断されるが,13-27%の患者では最初の臨床症状となる.PHEOは散発例に比べて早い年齢で,より軽微な臨床症状で診断され,より両側性であることが多い.悪性化は4%にみられる.PHPTは典型例では軽症で,多くの患者は無症状であり,単腺の腺腫の場合から顕著な過形成までさまざまである.PHPTは通常MTCの診断からかなり遅れて発症し,平均発症年齢は38歳である.
MEN2AのPHEOは散発例と比較して,異所性(副腎外)発生は少なく,悪性である頻度も低い.
1-4.6
2. 予防的介入の効果
患者の管理 すべてのMENもしくはFMTCの患者は予防的甲状腺全摘術を受けるべきである.手術のタイミングは,RET変異のリスク分類とMTCの悪性度リスクに関する他の指標に基づいて決められる.MEN2Aに関連するRET変異は“high risk”(甲状腺全摘術は5歳まで,もしくは血中カルシトニン濃度に基づいてそれ以前に行う)および”moderate risk”(甲状腺全摘術は血中カルシトニン濃度に基づいて5歳以降に考慮する)に分類される.早期の予防的甲状腺全摘術の目的は完治率の低下を招く転移を生じる前に介入することである.甲状腺全摘術を行ったMEN2患者を追跡した2つの研究では,7年後に41/46のMEN2A/FMTC患者で,あるいは10年後に44/50の患者でMTCの徴候を認めなかった.これはMTCの診断と介入は関連する障害を大きく変えることができることを示している. (Tier 1) 2.7
日本では,未発症の段階での甲状腺全摘出術は行わず,血中カルシトニンや頸部超音波検査により発症が確認された早期の段階で手術を行っている.
サーベイランス 予防的甲状腺全摘術を遅らせることができるMEN2Aの"moderate risk"症例では,5歳から年1回の血中カルシトニン基礎値の測定と頸部超音波検査を行うべきである. (Tier 1) 2.7
PHEOのサーベイランスには年1回の血中遊離メタネフリン/ノルメタネフリンもしくは24時間蓄尿によるメタネフリン/ノルメタネフリンの測定を含むべきである.PHEO発症の好発年齢を考慮し,サーベイランスはMEN2Aの“high risk”では11歳から,”moderate risk”では16歳から開始する. (Tier 2) 2.7
母と胎児の両方に高いリスクとなるので,MEN2に関連したRET変異を持つ女性が挙児を希望しているもしくは妊娠している時は,PHEOの存在を否定することが必要である. (Tier 2) 2.7
PHPTのサーベイランスはPHEOと同時に開始し,年1回の血清補正カルシウムもしくはイオン化カルシウム濃度を行い,副甲状腺ホルモン(intact PTH)の測定を含む場合も含まない場合もある.サーベイランスを開始する年齢は,PHPTの典型例の発症年齢に基づいている. (Tier 2) 2.7
家族の疾患管理 MEN2の家族歴がある者にはRET遺伝学的検査を提供すべきである.MEN2Aでは,検査は5歳までに実施すべきである.(Tier 1) 2
回避すべき事項 動物による研究で甲状腺C細胞腫瘍との関連が認められたため,リラグルチドや類似の糖尿病治療薬はMEN2患者には禁忌である.ただしヒトにおける関連性は不明である. (Tier 2) 8.9
3. 健康危害が生じる可能性
遺伝形式 常染色体優性遺伝
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 少なくとも98%以上のMEN2A患者,95%以上のFMTC家系でRET遺伝子の病的バリアントが同定される. (Tier 3) 4
MEN2Aの有病率がおおよそ1/40,000であることを考えると,MEN2Aの原因となる病的バリアントの頻度もほぼ同等と推計される.
浸透率または相対リスク MEN2Aの関連腫瘍の浸透率は,MTCが90-98%,PHEOが50-57%,PHPTが15-30%,アミロイド苔癬が10-15%である. (Tier 3) 2-5
褐色細胞腫の浸透率は変異コドンにより異なる.MEN2Aで最も浸透率が高いC634変異では,70歳までに約80%の浸透率である.一方,”moderate risk”の変異を持つ例では浸透率は最高でも20%程度である. 10
相対リスクに関する情報は得られていない.
表現度 表現度 同一の病的バリアントを有する患者でも,疾患の進展は多彩である.同一家系内であっても,疾患の自然歴は多彩でありうる. (Tier 2) 3
4. 介入の性質
介入の性質 本レポートで取り上げた推奨には,潜在的なリスクを有する侵襲的手術である予防的甲状全摘出術,および重荷になりうる定期的な生化学スクリーニングが含まれる.
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性
臨床的に見逃される可能性 MEN2Aに伴う典型的なMTCは,散発性MTCに比べて早期に発症し,より悪性度が高く,推奨されている臨床的ケアのもとでの臨床診断から漏れる可能性が高い. (Tier 3) 4
6. 遺伝学的検査へのアクセス
遺伝学的検査 すでにMTCと診断されている患者に対するRET遺伝学的検査は保険収載されている.PHEOやPHPTのみを発症している患者に対する,あるいは変異が同定された患者の血縁者に対する遺伝学的検査は保険適用ではない.

参考文献
1. Multiple endocrine neoplasia type 2A. Orphanet encyclopedia, http://www.orpha.net/consor/cgi-bin/OC_Exp.php?lng=en&Expert=247698
2. Kloos RT, Eng C, Evans DB, Francis GL, Gagel RF, Gharib H, Moley JF, Pacini F, Ringel MD, Schlumberger M, Wells SA Jr. Medullary thyroid cancer: management guidelines of the american thyroid association. Thyroid. (2009) 19(6):565-612.
3. Niederle B, Sebag F, Brauckhoff M. Timing and extent of thyroid surgery for gene carriers of hereditary c cell disease--a consensus statement of the european society of endocrine surgeons (eses). Langenbecks Arch Surg. (2014) 399(2):185-97.
4. F Giusti, F Marini, ML Brandi. Multiple endocrine neoplasia type 1. 2005 Aug 31 [Updated 2015 Feb 12]. In: RA Pagon, MP Adam, HH Ardinger, et al., editors. GeneReviewsR [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2019. Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1538
5. Raue F, Rondot S, Schulze E, Szpak-Ulczok S, Jarzab B, Frank-Raue K. Clinical utility gene card for: multiple endocrine neoplasia type 2. Eur J Hum Genet. (2012) 20(1).
6. Brandi ML, Gagel RF, Angeli A, Bilezikian JP, Beck-Peccoz P, Bordi C, Conte-Devolx B, Falchetti A, Gheri RG, Libroia A, Lips CJ, Lombardi G, Mannelli M, Pacini F, Ponder BA, Raue F, Skogseid B, Tamburrano G, Thakker RV, Thompson NW, Tomassetti P, Tonelli F, Wells SA Jr, Marx SJ. Guidelines for diagnosis and therapy of men type 1 and type 2. J Clin Endocrinol Metab. (2001) 86(12):5658-71.
7. Wells SA Jr, Asa SL, Dralle H, Elisei R, Evans DB, Gagel RF, Lee N, Machens A, Moley JF, Pacini F, Raue F, Frank-Raue K, Robinson B, Rosenthal MS, Santoro M, Schlumberger M, Shah M, Waguespack SG. Revised american thyroid association guidelines for the management of medullary thyroid carcinoma. Thyroid. (2015) 25(6):567-610.
8. Medical services commission. diabetes care. victoria (bc) british columbia services commission. Other. (2010) Website: www.guideline.gov/content.aspx?id=38898
9. Diagnosis and management of type 2 diabetes mellitus in adults. bloomington (mn) institute for clinical systems improvement (icsi). Other. (2012) Website: https://www.icsi.org/_asset/3rrm36/Diabetes.pdf
10. Imai T, Uchino S, Okamoto T, Suzuki S, Kosugi S, Kikumori T, Sakurai A; MEN Consortium of Japan. High penetrance of pheochromocytoma in multiple endocrine neoplasia 2 caused by germ line RET codon 634 mutation in Japanese patients. Eur J Endocrinol. (2013) 168(5): 683-687.