結果/介入 | 重症度 | 浸透率 | 有効性 | 介入の程度 とリスク |
アクセス性 | スコア |
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副甲状腺腫瘍による障害/生化学スクリーニング | 1 | 3C | 3B | 3 | A | 10CB-A |
他の神経内分泌腫瘍による障害/生化学スクリーニング | 2 | 3C | 2B | 3 | B | 10CB-B |
他の神経内分泌腫瘍による障害/画像スクリーニング | 2 | 3C | 2B | 2 | B | 9CB-B |
状態:多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)
遺伝子:MEN1 |
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項目 | エビデンスに関する説明 | 参考文献 |
1.病的アレルを有する人の健康への影響 | ||
遺伝性疾患の有病率 | 多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)の有病率は1/10,000 から 1/30,000と推測されている. | 1.2 |
臨床像(症候/症状) | MEN1ではさまざまな組み合わせの20種類以上の内分泌腫瘍および非内分泌腫瘍を伴う.随伴する内分泌腫瘍には,副甲状腺腫瘍,下垂体前葉腫瘍,高分化型膵消化管神経内分泌腫瘍,カルチノイド腫瘍,副腎皮質腫瘍がある.原発性副甲状腺機能亢進症の原因となる副甲状腺腫瘍(病理学的には過形成)はMEN1でもっとも高頻度にみられる病変である.臨床症状は腫瘍の発生部位とそこから分泌されるホルモンによる.非内分泌腫瘍としては,顔面血管線維腫,結合組織母斑,脂肪腫,髄膜腫,上衣腫,平滑筋肉腫がある. | 1-3 |
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) | 原発性副甲状腺機能亢進症の原因となる副甲状腺腫瘍はMEN1で最も頻度が高く,かつ90%の患者で初発病変となる.典型例では20-25歳の間に発症する.しかしMEN1自体はすべての年齢層で発症し,報告された年齢は5歳から81歳に及ぶ.無治療のMEN1患者では50歳までに半数が死亡する.50-70%の患者の死因は悪性腫瘍及びそれに伴う後遺症によるものである.MEN1に伴う腫瘍は,非MEN1腫瘍に比べてより外科的治療が困難であり,より潜在的な転移病変を伴うことが多く,より大きく増殖性である可能性があり,より治療に対して抵抗性である.MEN1の罹患には性差はない. | 1.3 |
2. 予防的介入の効果 | ||
患者の管理 | 男性の原発性副甲状腺機能亢進症に対する頸部手術に際しては,特に患者が喫煙者であり,胸腺神経内分泌腫瘍の家族歴がある場合には,予防的胸腺摘出術を考慮すべきである. (Tier 3) | 2 |
日本人MEN1患者のデータでは,胸腺神経内分泌腫瘍は女性にも発症し(男性:女性=1.8:1),かつ喫煙との関連は認められない. | 4 | |
サーベイランス | MEN1患者には,関連腫瘍に対する臨床的,生化学的,および画像スクリーニングを行うべきである.患者は副甲状腺腫瘍に対しては8歳から毎年の血中カルシウムと副甲状腺ホルモン濃度の測定が推奨される.患者はまた,膵神経内分泌腫瘍,下垂体腫瘍,胸腺神経内分泌腫瘍,肺気管支神経内分泌腫瘍,胃神経内分泌腫瘍および副腎腫瘍に対するスクリーニングも推奨される.スクリーニングの方法やタイミングは検査の提供可能性や臨床的判断,さらに患者の意向によって決定される.腫瘍を早期に診断し治療することは,障害を減らし死亡率を低下させると考えられるので,無症状の段階での腫瘍の検出はMEN1患者の予後を改善すると期待される. (Tier 2) | 3 |
家族の疾患管理 | MEN1関連病変は早ければ5歳から発症するので,患者の第1度近親者にはなるべく早い機会に遺伝カウンセリングと発症前遺伝学的検査が提供されるべきである.さらに,生化学・画像検査を繰り返すことの重荷と経済的負担を避けるために,血縁者に対する発症前遺伝学的検査は生化学・画像検査によるスクリーニングよりも先に行うことが推奨される. (Tier 2) | 3 |
MEN1の遺伝学的検査が実施できなかったり検査結果が明確でなかったりした場合には,MEN1患者の第1度近親者に対しては患者に提供すると同様の定期的サーベイランスを行うことが推奨される. (Tier 4) | 2 | |
回避すべき事項 | 回避すべき事項に関する情報は得られていない. | |
3. 健康危害が生じる可能性 | ||
遺伝形式 | 常染色体優性遺伝 | |
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 | MEN1の頻度は1/30,000と推定されている. 家族性MEN1患者の80-90%にMEN1遺伝子の病的バリアントが検出されることを考えると,病的バリアントの頻度もおおよそ1/30,000と考えられる (Tier 3) | 2 |
浸透率または相対リスク | MEN1の年齢別の浸透率は20歳までに50%以上,40歳までに95%である. (Tier 3) | 2 |
個々の腫瘍で推定される浸透率は以下の通り:副甲状腺腫瘍 (90%), 膵消化管腫瘍 (30-70%), 下垂体腫瘍 (30-40%), 副腎皮質腫瘍 (40%), 褐色細胞腫 (< 1%) , 肺気管支神経内分泌腫瘍 (2%), 胸腺神経内分泌腫瘍 (2%), 胃神経内分泌腫瘍 (10%), 脂肪腫 (30%), 血管線維腫 (85%), 結合組織母斑 (70%), 髄膜腫 (8%). (Tier 3) | 2 | |
日本人患者のデータでは,副甲状腺腫瘍 (94.4%), 膵消化管神経内分泌腫瘍 (58,6%), 下垂体腫瘍 (49.6%), 副腎皮質腫瘍 (20.1%), 胸腺および肺気管支神経内分泌腫瘍 (8.4%), 血管線維腫 (44%). (Tier 3) | 5.6 | |
MEN1腫瘍の相対リスクに関する情報は得られていない. | ||
表現度 | 発症する腫瘍の組み合わせやそれぞれの腫瘍の病理学的特徴は家族ないでも,さらには一卵性双生児間でも異なる. (Tier 3) | 2.3 |
4. 介入の方法 | ||
介入の方法 | 介入には複雑な臨床的,生化学的および画像検査によるスクリーニングを含み,これらは重荷になったり多少のリスクを含んだりする. | |
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性 | ||
臨床的に見逃される可能性 | 腫瘍が若年でも発症すること,標準的に推奨される診療とは異なるスクリーニングが推奨されることから,内分泌腫瘍を示唆する症状が出現する前に診断される機会を逃す場合がありうる. | |
6. 遺伝学的検査へのアクセス | ||
遺伝学的検査 | 国内では複数の民間検査機関がMEN1遺伝学的検査を受託している.本検査は保険収載されていない. |
参考文献
1. Multiple endocrine neoplasia type 1. Orphanet encyclopedia, http://www.orpha.net/consor/cgi-bin/OC_Exp.php?lng=en&Expert=652
2. F Giusti, F Marini, ML Brandi. Multiple endocrine neoplasia type 1. 2005 Aug 31 [Updated 2015 Feb 12]. In: RA Pagon, MP Adam, HH Ardinger, et al., editors. GeneReviewsR [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2019. Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1538
3. Thakker RV, Newey PJ, Walls GV, Bilezikian J, Dralle H, Ebeling PR, Melmed S, Sakurai A, Tonelli F, Brandi ML. Clinical practice guidelines for multiple endocrine neoplasia type 1 (men1). J Clin Endocrinol Metab. (2012) 97(9):2990-3011.
4. Sakurai A, Imai T, Kikumori T, Horiuchi K, Okamoto T, Uchino S, Kosugi S, Suzuki S, Suyama K, Yamazaki M, Sato A; MEN Consortium of Japan. Thymic neuroendocrine tumour in multiple endocrine neoplasia type 1: female patients are not rare exceptions. Clin Endocrinol (Oxf). (2013) 78(2):248-254.
5. Sakurai A, Suzuki S, Kosugi S, Okamoto T, Uchino S, Miya A, Imai T, Kaji H, Komoto I, Miura D, Yamada M, Uruno T, Horiuchi K, Miyauchi A, Imamura M; MEN Consortium of Japan, Fukushima T, Hanazaki K, Hirakawa S, Igarashi T, Iwatani T, Kammori M, Katabami T, Katai M, Kikumori T, Kiribayashi K, Koizumi S, Midorikawa S, Miyabe R, Munekage T, Ozawa A, Shimizu K, Sugitani I, Takeyama H, Yamazaki M. Multiple endocrine neoplasia type 1 in Japan: establishment and analysis of a multicentre database. Clin Endocrinol (Oxf). (2012) 76(4):533-539.
6. Sakurai A, Matsumoto K, Ikeo Y, Nishio SI, Kakizawa T, Arakura F, Ishihara Y, Saida T, Hashizume K. Frequency of facial angiofibromas in Japanese patients with multiple endocrine neoplasia type 1. Endocr J. (2000) 47(5):569-573.