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日本版作成協力者:井本逸勢 田中屋 宏爾 

Lynch 症候群(LS)サマリーレポート


結果/介入 重症度 浸透率 有効性 介入の程度
とリスク
アクセス性 スコア
大腸がん/サーベイランス 2 3A 3A 2 A 10AA-A
子宮内膜がん/サーベイランス 2 3A 1A 2 A 8AA-A
子宮内膜がん/リスク低減手術(注1) 2 3A 3B 2 C 9AB-C
注1.一般に日本では行なわれていない。

状態:Lynch 症候群(LS) 遺伝子:MLH1, MSH2, MSH6, PMS2, EPCAM
項目 エビデンスに関する説明 参考文献
1.病的アレルを有する人の健康への影響
遺伝性疾患の有病率 現在米国では、およそ1,154,000人が大腸がんと共に生活しているのに対し、60万人の女性が子宮内膜がんに罹患している。LSは最も一般的な遺伝性大腸がんであり、全大腸がん症例の1-5%、および全子宮内膜がん症例の2%を占める。 1-6
日本では2014年の大腸がん、子宮内膜がんの罹患数は各約171,000人、1,4000人(国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」)。遺伝性の率は不明。 日本人の統計では大腸癌の0.7%とされる。 J1
臨床像(症候/症状) LSは、大腸がんおよび他のがん(子宮内膜がん、卵巣がん、および胃がんを含む)のリスクが高いことを特徴とする。がんは典型的には若年期に発症し、個体は複数のがんを発症する可能性がある。LS関連大腸がんの大部分(>90%)にはマイクロサテライト不安定性(MSI)を認め、これはミスマッチ修復遺伝子産物(MMR)の機能不全または喪失があることを示している。 1-3,5-8
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) 診断時の平均年齢は、大腸がんが44?61歳、子宮内膜がんが48?62歳、卵巣がんが42歳、その他のLS関連がんがそれより高齢となる。最も一般的なLS関連がんは大腸がんでは、大腸ポリポーシスとは無関係であり、典型的には単一の結腸直腸病変から生じて散発性大腸がんより急速に腺腫から癌腫へと進行し、右側結腸に発症することが最も一般的である。がんの生涯リスクは変異遺伝子や性別によって異なり、男性は女性と比較して大腸がんの発症リスクが高い。大腸がんの再発は一般的である。しかし、LS関連大腸がんおよび子宮内膜がんの患者は、散発性腫瘍の患者と比較してよりよい生存率を示す。 2.3.6-8
日本での平均年齢は大きい集団でのデータはない。
2. 予防的介入の効果
患者の管理 予防的子宮摘出術および卵管卵巣摘出術は、LS関連子宮内膜がんおよび卵巣がんの発症リスクを低減することが示されており、出産が完了した35?40歳以降の病的バリアント保有者に対する選択肢として検討されるべきである。後方視的研究では、予防的子宮摘出術および/または両側卵管卵巣摘除術を受けた女性では、婦人科がんの発生を認めなかった。これに対し、受けなかった女性では子宮内膜がんおよび卵巣がんの発生率がそれぞれ33%および5%であった。 (Tier 2) 2,5-9
日本でのデータはない。一般的に予防的子宮摘出術および卵管卵巣摘出術は、LSでは施行されていない。
アスピリンの定期的な内服は、LSがんの発生率を有意に減少させる。ランダム化比較試験からの証拠は、定期的なアスピリンが大腸がんおよび他のLS関連がんの発生率を60%減少させることを示した。(Tier 2) ただし,本試験は、日本人では内服困難な高容量の試験であり、日本でのデータはない。 2.5.6.10
医療専門家は、遺伝学的検査とサーベイランスに関連する潜在的な心理社会的問題があることを認識しているべきであり、心理的苦痛を経験している患者は、臨床心理学者に紹介されるべきである。(Tier 2) (追記)なし。 5
サーベイランス 大腸がん:定期的な大腸内視鏡によるサーベイランスは、LSの大腸がん発生率の有意な減少、より早期での大腸がん症例の検出、および大腸がん関連死亡率の減少をもたらすことが示されている。LSの病的バリアント保有者は、20?25歳で始めて1?3年ごとに大腸内視鏡検査を受けるべきである。6件の研究のうち5件は、サーベイランスにより大腸がんの発生率が有意に低下したことを示した(OR推定値は0.11?0.35の範囲)が、ORを0.93と報告した6番目の研究では有意ではなかった。 4件の研究のうち2件は、サーベイランスによる大腸がん関連死亡率の有意な減少を示した(OR推定値は0.04~0.17の範囲)が、4件の研究のうち3件はサーベイランス群での死亡率が報告されていない。(Tier 1)日本でのデータはない。
子宮内膜がん:子宮内膜生検を伴う経腟超音波検査は、子宮内膜のがんおよび前がん病変を検出する可能性がありますが、それでも合間での子宮内膜がん発症が見られ、その後の生存率の改善は示されていません。(Tier 1)日本でのデータはない。 7
上部消化管:LS病的バリアント保有者は、胃癌をスクリーニングするために、食道胃十二指腸鏡検査を受けるべきである。なお、スクリーニングを開始する年齢および頻度に関しては、それぞれ30~25歳から50歳まで、および1年に2回から2~3年ごとと推奨案間で差がある。ただし、このサーベイランスによって死亡率が低下するという証拠はない。(Tier 2) (追記)日本でのデータはない。 6.8.12.13
尿路がん:尿路がんをスクリーニングするために、LS患者は25~35歳から年1回尿検査を受けるべきである。(Tier 2) (追記)日本でのデータはない。 6.8
回避すべき事項 喫煙と高BMIはLSの腺腫と大腸がんのリスク増加と関連しているため、患者は通常の体重範囲内に留まり、喫煙を控えることを推奨する。(Tier 2) (追記)日本でのデータはない。→ 喫煙、飲酒については大腸癌研究会のデータがあります。Tanakaya K, et al. Relationship between smoking and multiple colorectal cancers in patients with Japanese Lynch syndrome: a cross-sectional study conducted by the Japanese Society for Cancer of the Colon and Rectum. Jpn J Clin Oncol. 2015;45:307-10. Masashi Miguchi Alcohol consumption and early-onset risk of colorectal cancerin Japanese patients with Lynch syndrome: a cross-sectional study conducted by the Japanese Society for Cancer of the Colon and Rectum. Surgery Today (2018) 48:810-814 5.J2.J3
3. 健康危害が生じる可能性
遺伝形式 常染色体優性
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 一般集団中の1/440と推定される。(Tier 3)日本でのデータはない。 3
定義では、LS症例は、ミスマッチ修復遺伝子のうちの1つの欠損によるものである。(Tier 3) 2
浸透率または相対リスク 70歳までのLSにおけるがんの累積リスク:
大腸= 25~70%
子宮内膜= 30~70%
胃= 1~9%
小腸= 1~4%
胆道= 1~2%
膵臓= 1 -4%
尿路= 2~8%
上部尿路= 6%
膀胱= 2~16%
卵巣= 6~14%
脳= 3.5%
前立腺= 9~30%
乳房= 5~14 %
リスクはMMR遺伝子によって異なり、EPCAM欠失病的バリアント保有者は、大腸がんは同様のリスクを有するが、子宮内膜がんのリスクは低い(70歳までに12%)。(Tier 3) (追記)日本でのデータはない。
5
前立腺癌リスクは約2.1~2.3倍である。(Tier 1) (追記)日本でのデータはない。 14
表現度 表現度の違いについての情報は利用できなかった。
4. 介入の方法
介入の特徴 内視鏡検査は、受検者にとって負担となりうる。(Tier 2) 1.7
大腸内視鏡検査は、痛み、吐き気、出血、穿孔、および死亡を含むリスクと関連する。(Tier 3) 1.7
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性
臨床的に見逃される可能性 LS関連大腸がんは散発性大腸がんと比較して平均発症年齢が低く早いペースで進行するため、また子宮内膜がんはそのリスクが高いため、これらの患者は平均リスク集団での高齢者に対するサーベイランスを用いると大腸がんが見逃される可能性があり、また一般集団に対する子宮内膜がん検診は全く推奨されない。(Tier 4) 7
6. 遺伝学的検査へのアクセス
遺伝学的検査 複数の検査会社を通じて自費診療で可(注1) 注1:大腸がんにおけるスクリーニングやペンブロリズマブのコンパニオン診断として、体細胞遺伝子検査として保険適応となっているものの、その後の遺伝学的検査は自費診療

参考文献
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