結果/介入 | 重症度 | 浸透率 | 有効性 | 介入の程度 とリスク |
アクセス性 | スコア |
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臨床的に有意な大動脈瘤/サーベイランス | 3 | 3C | 3C | 3 | B | 12CCB |
大動脈拡張進行/薬物治療 | 2 | 3C | 2B | 3 | B | 10CCB |
状態:Loeys-Dietz症候群 (LDS)
遺伝子:SMAD3, TGFB2, TGFB3, TGFBR1, TGFBR2 |
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項目 | エビデンスに関する説明 | 参考文献 |
1.病的アレルを有する人の健康への影響 | ||
遺伝性疾患の有病率 | Loeys-Dietz症候群(LDS)の有病率は不明である。 | 1, 2 |
臨床像(症候/症状) | LDSは臨床的特徴をさまざまな組み合わせで有しており、幅広い表現型を持つ。LDSでは血管障害(脳・胸部・腹部の動脈瘤や動脈解離、動脈蛇行)と骨格障害(胸郭変形、側弯症、関節の弛緩や拘縮、くも状指趾、内反足、頸椎の奇形や不安定性、骨関節炎)が特徴的である。患者は他に頭蓋顔面障害(眼間開離、二分口蓋垂、口蓋裂、頭蓋骨縫合早期癒合症)や皮膚徴候(ビロードのような半透明の皮膚、易出血性、萎縮性瘢痕)などを伴う場合がある。LDS患者は、喘息、湿疹、食物や環境アレルゲンに対する反応など、アレルギー/炎症性疾患の強い素因を示す。好酸球性食道炎や胃炎、炎症性腸疾患などの胃腸疾患の発生率も増加する。眼症状には、近視、屈折異常、斜視、青色強膜、薄暗い色の強膜などの眼合併症も見られることがある。TGFBR1遺伝子異常に関連したLDS I型、TGFBR2に関連したLDS II型、SMAD3に関連し骨関節炎を合併しうるLDS III型、TGFB2と関連したLDS IV型、TGFB3に関連したLDS V型というふうに、原因遺伝子ごとに細分類されている。これらの亜型の重症度はLDS1=LDS2=LDS3>LDS4>LDS5と一般的に捉えられている。 | 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 19 |
LDSの眼合併症として、中心角膜の厚みの減少と軽度の近視が認められた。水晶体偏位はMFSより少なかったが、一般人口より多い傾向にある。強膜や網膜の血管異常はLDSに特徴的な所見ではなかった。 | 16 | |
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) | をきたすことが多く、罹患率や死亡率に大きく寄与している。大動脈拡大のスピードが年間10mmを上回ることがある。大動脈解離は幼児期にも起こることがあり、血管イベントで死亡した患者の平均年齢は30歳である。他に生命を脅かす合併症として、脾臓や腸管の自然破裂、妊娠中の子宮破裂がある。妊娠に関連した合併症は頻度が高く、妊娠・分娩中には大動脈解離/破裂と子宮破裂が起こることがある他、分娩直後に大動脈解離/破裂をきたすこともある。民族や人種、性別による違いは報告されていない。 | 2, 3, 5, 8, 15 |
大動脈拡大を有するTGFBR2病的変異保有者と大動脈拡大を有するFBN1病的変異保有者を比較すると、大動脈解離の発症年齢や手術の必要性は同等であったが、死亡率は前者の方が有意に高かった。TGFBR1変異とTGFBR2変異では、大動脈病変の発生率は変わりがなかった。 | 2, 15 | |
Marfan症候群に比べて、より小さな動脈にも動脈解離が起こる。 | 2 | |
2. 予防的介入の効果 | ||
患者の管理 | LDSと診断された患者は、疾患の進行具合と医学的管理の必要性を調べるために、以下の評価を行うことがが推奨されている。
・心臓超音波検査 ・頭部から骨盤までの3次元再構成を含めたMRAまたはCT検査で、動脈樹全体の動脈瘤と動脈蛇行を評価する。 ・整形外科医による骨格のレントゲン写真の確認を行い、重度の側弯症、頸椎不安定性などの評価を行う ・口蓋裂および頭蓋縫合早期癒合症の有無を確認するための頭蓋顔面検査 ・結合組織疾患の専門知識をもつ眼科医による眼の検査(最大限散瞳した上で水晶体(亜)脱臼の有無を細隙灯検査で確認し、弱視のリスクのある幼児には注意深く屈折と視力の矯正を行い、網膜剥離に特異的な評価を行う) ・臨床遺伝医や遺伝カウンセラーとの相談(Tier 4) |
2 |
LDSの管理は、臨床遺伝医、循環器内科医、眼科医、整形外科医、心臓血管外科医の各専門家により構成された集学的チームの元で行うのが最も効果的である。(Tier 4) | 1, 2 | |
通常、大動脈径が4.2cm以上になると予防的外科手術が推奨される。しかし、この数値は大動脈の拡大率、大動脈以外の病変の有無、特定の遺伝子変異(たとえばTGFBR2変異だと>4.0cm)によって変わる。Marfan症候群(MFS)患者では時期を逸さずに大動脈瘤を修復すれば、生存期間は延長し、同年齢の対照群の平均余命に近づくが、LDS患者に対して大動脈予防手術の有効性はまだ証明されていない。(Tier 2) | 3, 4, 7, 9, 10, 11 | |
日本の大動脈瘤・解離のガイドライン上、「LDSでは,MFSよりも大動脈基部または上行大動脈径が より小さい場合でも考慮する」と記載されており、大動脈径が4.0cm以上で侵襲的治療を推奨されている。 | 20 | |
53人のLDS患者を対象とした研究で、33人(62%)が大動脈手術を受けた。手術時の平均年齢は39±14歳、最大大動脈径の平均値は4.3cmであった。緊急手術後に2人(6%)が死亡した。22人(67%)は大動脈再手術を要さなかったが、このうちの20人は予防的手術であった。11人(33%)は複数回の手術を受けたが、うち9人は大動脈解離を経験した。6人(18%)で大動脈全置換術を必要とした。大動脈起始部の再手術を受けた19人の中で、大動脈や弁に関連する合併症の発生はなかった。最終的に、33人の患者で58回の大動脈手術、81回の心血管手術が行われ、晩期死亡が1例認められた。大動脈手術後の10年生存率は89%であった。 | 18 | |
2017年に改訂されたGeneReviewsでは、早い時期の自己弁を温存した予防的外科手術の安全性が向上したことを背景に、以下のように記載が変更となっている。 ・LDSの身体的特徴の非常に強い幼児では、最大径が99パーセンタイルを超え、大動脈弁輪が1.8-2.0cmを超えた段階(成長に対応できる十分なサイズのグラフトを入れるスペースがある段階)で、上行大動脈の外科的修復を検討する必要がある。他に家族歴、大動脈基部の拡大率、大動脈弁の機能が手術時期の決定に影響を与える因子となる。 ・青年および成人の場合、最大径が4.0cmになった段階で上行大動脈の外科的修復を検討する必要がある。この推奨は大動脈基部が4.0cm以下の成人における大動脈解離の多数の報告例と予防的手術における優れた手術成績の双方に基づいて決められたものである。解離のない大動脈拡大の家族歴を強く認める場合には、この推奨に従わない場合もある。 (このような方法をとっても、動脈解離や死亡のリスクがなくなるたけではなく、家族歴や個人の病歴に応じてリスク対利益の個別的評価を行い、より早期の介入を必要とする場合もある) | 2 | |
妊娠を考えている女性患者の場合は、予防的手術が大動脈基部>4.0cmで考慮してもよい。(Tier 2) | 10 | |
β遮断薬や他の薬剤を血行力学的ストレスの軽減のために使用してもよい。LDSに対するβ遮断薬やアンギオテンシンII受容体拮抗薬の効果を直接証明した研究はない。(Tier 4) | 1,2 | |
LDSに対する上記の投薬の有効性は証明されていないが、MFSの小児・若年成人例を対象にした5つのコホート研究のメタ解析では、無治療の場合と比較して、β遮断薬を投与した場合には、有意に大動脈の拡大率が低下したと報告されている(標準化平均値差 -1.30;95%信頼区間 -2.11~-0.49;p=0.002)。12~50歳のMFS患者70人を対象としたランダム化比較試験でも、無治療の場合と比較して、β遮断薬を使用した場合には、大動脈拡大の速度が有意に遅くなることが示された。大動脈拡大の速度とは、実際に測定した大動脈径を、患者の身長・体重・年齢から予測される大動脈径で割ったもの(大動脈比)として測定されたものである(時間に対してプロットされた大動脈拡大の平均勾配度数はそれぞれ0.084と0.023であった)。どの研究においても死亡、大動脈解離の発生、大動脈または大動脈弁の待機的手術の必要性に対する効果は確認されていないが、検出力不足であった可能性がある(Tier 1) | 12, 13 | |
MFSの小児・成人を対象とした6つのランダム化比較試験のメタ解析によると、アンギオテンシンII受容体拮抗薬であるロサルタンを使用した場合には、ロサルタンを使用しなかった場合と比較して、大動脈拡大率が有意に低下した(標準化平均値差 -0.13;95%信頼区間 -0.25~0.00;p=0.04)。しかし、死亡、心血管手術、大動脈解離/破裂の改善は認められなかった。これらの研究における追跡期間が35ヶ月から3.5年と短く、このことがイベント発症の評価に影響を与えた可能性がある。(Tier 1) | 14 | |
高血圧は速やかに診断され治療されるべきである。(Tier 2) | 7 | |
TGFBR1またはTGFBR2の病的変異保持者には、大動脈解離の徴候と症状を教えておくことが必要で、医療用警告ブレスレットの着用を検討する必要がある。(Tier 2) | 4 | |
外科手術後にヘルニアが再発する傾向がある。メッシュを用いた修復を行うことで、再発リスクを最小化することができる。(Tier 4) | 2 | |
気胸の再発予防のために、化学的胸膜癒着術または外科的胸膜癒着術、ブレブの外科的切除を必要とする場合がある。(Tier 4) | 2 | |
妊娠中と周産期は大動脈合併症のリスクが増大する。この時期に大動脈解離/破裂を伴う大動脈イベントを発症する女性のうち、約50%は妊娠第三期に発生し、約33%は周産期に発生する。理想的には妊娠の経過を通してハイリスク妊婦を取り扱う産科クリニックで集学的なチームにより注意深く管理されるべきである。妊娠中の女性は、ステージ2高血圧を防止するために、厳格な血圧管理が必要である。入念に定期フォローされたMFS患者の中でも、4.4%の症例で大動脈解離を起こしている。定期フォローされていない患者では、そのリスクはさらに高くなる可能性がある。(Tier 2) | 3, 7 | |
妊娠中および分娩後数週間は、大動脈画像検査の頻度を増やすことが勧められている。LDSの女性は適切な管理のもと、ハイリスク妊婦として産科管理されることで、妊娠・出産を無事迎えることができる。 | 2 | |
13人のLDS女性において20回の妊娠を解析した結果、流産 1回、人工妊娠中絶 1回、生産 18回という結果であった。LDSの診断時期は、13人のうち8人が妊娠前、4人が妊娠中の遺伝学的診断、1人が分娩後であった。5人で大動脈解離の家族歴があった。今回の解析では妊娠中~分娩後の大動脈解離は認められなかったが、産後出血を33%、早産を50%で認めた。78%が選択的帝王切開術を施行した。56%の新生児が出生後NICUに入院した。 | 17 | |
妊娠前には、心臓超音波検査、CT、MRAによる心血管評価、MRIによる脊椎評価、妊娠中の大動脈解離のリスクに関する情報提供(大動脈径≧4.0cmでリスク大)、常染色体優性遺伝形式に関するカウンセリング、アンギオテンシン受容体拮抗薬からβ遮断薬への変更、大動脈径が4.0~4.5cmを超える場合の予防的大動脈手術の考慮を行うことが推奨されている。妊娠第1期には、4-8週ごとの心臓超音波検査、心臓血管外科医を含む集学的チーム医療、厳重な血圧管理が推奨される。妊娠第2期には、妊娠18-20週における母体の精密超音波検査と、妊娠22-24週における胎児心臓超音波検査が推奨される。妊娠第3期には、4週ごとの胎児発育評価、大動脈径に応じた分娩形態の決定(大動脈径<4.0cmなら経腟分娩、4.0-4.5cmなら無痛分娩もしくは帝王切開、>4.5cmなら帝王切開)が推奨される。分娩後は、心臓超音波検査(1週間後と6ヶ月後)とCTまたはMRA、避妊、母乳栄養における考慮(ヒトでは言われていないが、動物実験では授乳により大動脈解離を引き起こしたという結果あり。β遮断薬は授乳に安全)が推奨される。 | 18 | |
亜急性感染性心内膜炎の発症予防は、結合組織疾患患者で、僧帽弁あるいは大動脈弁に逆流がある場合には、歯科処置や菌血症が起こりうるその他の処置を受ける際に考慮されるべきである。(Tier 4) | 2 | |
頸椎不安定性のリスクが高いため、挿管やその他の頸部の操作を行う前に、頸椎を屈曲ならびに伸展させた姿勢でX線検査を行う必要がある。(Tier 4) | 2 | |
頸椎不安定性、内反足、骨の過成長、靭帯弛緩、漏斗胸に対しては手術が必要になることがあり、整形外科医により管理が必要となる。寛骨臼突出症に対しては手術が必要となることは少なく、疼痛管理が中心となる。扁平足に対して矯正器具が必要となることもあるが、外科的介入が適応となることはめったにない。 | 2 | |
サーベイランス | 患者はまず初回診断時と6ヶ月後に大動脈全体の画像診断を受け、大動脈拡大率を調べることが勧められる。その後、年1回(大動脈基部拡大を認めた場合には少なくとも6ヶ月ごとに)心臓超音波検査による定期的な画像診断を受けるべきである。(Tier 2) | 3, 4, 6, 9, 10 |
患者は頭蓋内血管から骨盤内血管までを評価するためのMRI検査を年1回は受けるべきである。(Tier 1) | 3 | |
頸椎不安定性、重度もしくは進行性の側弯症は整形外科医がフォローすべきである。 | 2 | |
家族の疾患管理 | アットリスクにある無症状の血縁者を正確に評価し、なるべく早い段階で大動脈瘤の有無を確認し、医学的あるいは外科的介入を始めることが重要である。評価には以下が含まれる。 ・家系内で病的バリアントがはっきりしている場合には分子遺伝学的検査を行う ・家系内で病的バリアントが不明の場合にはLDSの特徴の有無を確認する。LDSが疑われるケースだけでなく、発端者の所見が微妙な場合にはLDSを疑う徴候を認めないケースに対しても、心臓超音波検査や広範囲の血管造影が勧められる |
2 |
患者の約25%は遺伝性で両親のどちらかが患者である。一方、約75%は新規突然変異により発症する。 | 2 | |
回避すべき事項 |
LDSの患者は、以下の2つ以上を認める場合、低~中程度の運動強度の静的な競技スポーツならびに低運動強度である動的な競技スポーツに参加すべきではない。 ・大動脈基部の拡大または拡張、分枝血管の拡大 ・中程度~高度の僧帽弁閉鎖不全 ・スポーツへの参加リスクを増すような心臓外の合併症。(Tier 2) |
6 |
LDSの患者は、激しい運動や身体衝突の可能性を伴う競技性のあるスポーツに参加すべきではない。(Tier 2) | 6, 7 | |
患者は(緊張を必要とするような)重い物を持ち上げることを避けるべきである。(Tier 2) | 7 | |
接触を伴うスポーツ、競技スポーツ、等尺性運動、関節のけがや痛みの原因となるような活動は避けるべきである。 | 2 | |
患者は、鼻粘膜充血除去剤や片頭痛に対するトリプタンを日常的に使用するなど、心血管系に刺激を与えるような薬剤を使用することは避けるべきである。(Tier 4) | 1, 2 | |
気胸再発のリスクがある患者は、金管楽器の吹奏演奏時のような強く息を吹き込むような呼吸やスキューバダイビング時のような陽圧換気を避けるべきである。(Tier 4) | 2 | |
3. 健康危害が生じる可能性 | ||
遺伝形式 | 常染色体優性遺伝 | |
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 | LDSに関連する遺伝子バリアントの頻度に関して情報は得られなかった。 | 1, 2, 3 |
相対リスク | 相対リスクに関する情報は得られなかった。 | |
浸透率 | LDS患者において表現型のばらつきや重症度に大きな差異が認められる。同じ病的バリアントを有する家系内の罹患者にもそういった差異が認められる。(Tier 4) | 2 |
4. 介入の方法 | ||
介入の方法 | 確立した治療として予防的外科手術がある。 | |
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性 | ||
臨床的に見逃される可能性 | LDSの罹患率・死亡率は、大動脈解離と破裂の素因をもっているなどの心血管障害に依るところが大きい。これらは日常的な臨床診療において検出される可能性は低い。 | 2 |
6. 遺伝学的検査へのアクセス | ||
遺伝学的検査 | TGFBR1, TGFBR2, SMAD3, TGFB2, TGFB3 遺伝学的検査は保険収載されており、かずさDNA研究所で実施可能。 |
参考文献
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